作品群
この作品はコウノトリの雛が成長した姿を描き、子孫繁栄の幸福感を呼び覚さます。水辺にいる三羽は、今まさに大空に向かって飛び立とうとばかり準備に余念がない。うち二羽はすでに翼を広げ、羽ばたき始めている。注目すべきは、水面を離れようと思い切りジャンプしてみせる中央の一羽の足だろう。矢田作十路は三羽の姿勢に、それぞれへの思いを重ねているのかもしれない。

日本の名峰の堂々たる存在感が尾根筋のひとつひとつに至るまでリアルに描かれている。その筆致の柔らかく、どこまでも優しいことは比類がない。そしてこの山の特徴にもなっている麓まで見渡せる山容をうまく表現した遠近感を強調する木立の表現も過不足がなく、まことに気持ちのいい画面構成となっている。

越前海岸の月夜を描いたこの作品は、空の静を淡く、海の動を精緻に描くことでその対比を見事に描ききった作品である。月が荒波の中で孤独にそびえる岩に優しく微笑みかけるようにも見えることから、見る者に慈しみの心を思い起こさせるのも素晴らしく心に残る秀作である。

この作品は、矢田作十路の観察眼や発想を存分に発揮した作であると共に、水墨画の伝統にも測っていると考えられる傑作だ。鷹は獲物を見定める厳しい眼や、戦いの場に向かおうと殺気を漲らせる姿で、武士にとってはかけがえのない伴侶であった。しかもここでは松の枝はなく、断崖絶壁という一層切羽詰まった舞台が用意されていて怒涛の上に身をのりだしている一羽の決意のほどが、筆の勢いによって魅力的な緊迫感に高められており、迫力満点の一作である。生き物を描いては、愛情の細やかさと精神的な強靭さの描出に抜きんでた作家であるといえよう。(文=美術評論家 勅使河原純)

この作品は、山陰側山口県の海岸の断層を描いた作品であり、きわめて堅い岩で削ると畳石や千畳敷と呼ばれる長方形に剥がれるものをホルンフェルスと呼ぶことからこの題が選ばれた。矢田作十路はこうした壮大な風景に魅了され類似の作品を多く残している。岩肌を横に走る筋目からそこへ叩きつけるように寄せてくる怒涛、更には流れ落ちる波にいたるまでを、水墨とは思えない正確さと精緻さで描きとっており、海岸に轟く音までもが見る者を包み込む、迫力満点の一作である。

ひろやかな画面に月光を金色で放つ月の姿と荒々しくうねる海を情感的に描き、自由な筆触と潤いに富む墨法は円熟した技法の冴えを示している。

薪木に照らされた夜桜を描いたこの構図は幻想的でありながら、さかんな気魄にあふれるものであり、風に散らされる花弁の趣の深さと合せて実に爽やかな作風といえる。

たてがみを風になびかせ、白馬が天空を疾駆する姿だが、その静目だけで荒々しさを消し去る描写は、特に精彩にあふれている。

巨岩や荒波、灰雲をあしらつた構成をとるが、鮮明な岩肌と勁直な描線をもって明快な可視的効果をあげている。

この片方に大きく輪郭を描く構図法は矢田作十路には珍しいが、筆線に柔軟味があって、独特の味わいを感じさせられるとこは、作者の風尚を端的に表すものと言えよう。

厳寒の山奥の滝を描いたこの作品は、止まってしまったかのような時の流れを描くもので、みだりに大寒を描く物ではない。だが、その寒さあふれる姿態描写は円熟の技を示している。

本格的な水墨技法によるまるで武人のようにたくましい体軀の達磨大師は、上向いた巨眼を見開き威厳を払う感があり、衣文を描く繊細な線と併せて実に慈悲深い姿を描き出している。